Abi in malam rem -2-

 

 

 

 数時間後、伊集院大介はうす暗い部屋の中で目を覚ました。ひどくではないが頭痛が残り、意識はまだはっきりとはしていない。
 大介は、身を起こそうとして体を動かした。
 が、動かない、いや、動けないのだ。
 じゃらり、と頭上で金属質な音がひびいた。彼の手首は頭の上で手錠でひとくくりにされ、また、足首にもそれぞれ鎖がかかっていた。そして首と、胸部、腹部は、革のベルトによりベッドらしきものに固定されている。それだけでなく、彼の衣服はいつの間にかすべて脱がされ、一糸まとわぬ姿となっていた。
「な・・・・・・!」
 大介は、その自分の姿に気づくと、絶句した。

「お目覚めかな、親愛なる伊集院大介先生」
 そこに立っていたのは、ドレスシャツにタキシードをまとった長身の男だった──白皙の美貌のデザイナー、飛鳥京介──またの名を、シリウス──。
「その恰好はお気に召したかな。君のために特別に作ってもらったベッドなのだが」
「シリウス、こんなことをして、いったいぼくをどうするつもりなのですか」
 シリウスは高らかに笑う。
「ははは、伊集院先生、そんな恰好にされていて、『どうするつもりだ』とは・・・・・・。まさか、その想像がつかないほどウブだ、という訳でもないでしょう?まあ、それならそれで、教え込む楽しみがあるからね」
「いいえ。こんなことをして、あなたにいったい何の得があるのか、という事です」
「君の裸身が見られた、というだけでも十分に価値はあったよ。頭脳に比べたらまぁ残念なことに、どうにも貧相な肉体ではあるがね」
 そしてシリウスは、大介の男芯に指をからめ、微笑みを浮かべた。
「君のここは、君の躰によく似ている・・・・・・白くて、細いけれども長くて・・・・・・」
「止めろシリウス!」
 さしもの大介も、激高したように声をあらげた。
「ふふ、大介。そんな強情なことを言っていられるのも今のうちだよ。君がこれからあまり下手に拒むとね──彼女に累がおよぶんだ、それでもいいのかね?」
 シリウスの指が、照明のスイッチを押した。光に照らし出されたベッドの上に横たわるのは、猿轡をかまされ、全身を戒められた、一人の金髪の女性だった──。
 その光景だけでも、大介をあっと言わせるのに十分であった。が、彼が驚いたのはそれだけではなかった。
「刀根一太郎!」
 醜悪な面相、醜く曲がったからだ、人の良心などかけらも備われてはいないとわかる、ぎらついた目──殺人鬼、刀根一太郎が女性の傍につき従っていたのだ。
「そう、ぼくの忠実なる下僕だよ。よく知っているだろうが、奴は美しい女性の躰を目茶苦茶に切り刻むのが最上の悦びだからね──今はぼくが命令をしているから涎をたらしながらも我慢しているが、大介、君があんまり逆らうと僕は奴にGOサインを出してしまうよ。そうすればあの可愛そうなモデルの彼女は、たちまちのうちに血のしたたる肉塊と変わるんだよ」
伊集院大介はくちびるを噛み、刀根とシリウスを順に見やった。
 自分の言動如何であのかわいそうな女性の命がいとも簡単にうばわれてしまう、その卑劣なやり口と自分の無力さに歯がみする。
「さあ、じゃあ伊集院君、たっぷりと楽しませてもらおうか──長年の悲願がいまやっと、叶ったんだからね──」

 シリウスの手が大介の顎をとらえ、形のよいくちびるが大介のそれに重ねられ、合わせ目からなにか別の生物を思わせる舌が入り込んできた。そして蹂躙するかのように口腔内を這いまわる。その度に、くちゃ・・・と濡れた音がひびく。
 その感触のあまりの気持ち悪さに、大介は身を震わせた。
 シリウスは唾液の糸を引きながらくちびるを離すと、大介を見据える。
「伊集院君、ただそう何もしない状態でいるだけではこっちはあまり面白くないんだ、積極的になってくれないことにはねぇ・・・・・・」
 シリウスにより意のままにされているだけでさえ身の毛がよだつ思いなのに、さらにその上に、自分からシリウスの舌を、手を、躰をもとめなくてはならないとは──大介は一瞬目の前が暗くなりかけた──しかし、もう一つのベッドに横たわる女性のことが脳裏にうかんだ──彼女だけは、無事に帰さなくてはならない、そのためには自分の犠牲が必要なのだ。
 大介は意を決した。
「シリウス・・・・・・」
 小声で呼びかけると、薄く笑みを浮かべた顔が近づいてきて、そしてまたさっきのようにくちびるが重ねられる。異なるのは、それからだ──伊集院大介は、シリウスの口腔に舌を差し入れると、舌をからめ、歯列を舐めあげる・・・・・・そして一旦離れると、今度はさらに深く・・・・・・。
 その間、シリウスの手は大介の体を撫で上げていく。
 小さな音を立てて2人が離れると、言った。
「ふふ、なかなか上出来じゃないか。ほうびに、胴と手の戒めははずしてあげよう・・・・・・いつでも、君がぼくの体にすがりつくことができる様に」
 ようやく、不快感からときはならたれた安堵で、伊集院大介は大きく息をついて、軽口を言う。
「しかし、ぼくがあんなことをするなんて、ウン年ぶりですよ。貴重な体験でした」
「そうかい。まぁ、君だけにやらせているのは恐縮だ──では、ぼくが君の躰を快楽の淵に連れていってあげよう──死も生もすべて混沌とした快楽となっていくような・・・・・・そんな楽園にいる心地にね。ふだん冷静な伊集院君、君が乱れ、悦がり、ぼくの手の中で悦楽に悶えてあられもない姿をさらすさまが観てみたいんだ・・・・・・」
「そんな事にはなり・・・・・・ッ」
 シリウスは大介のあらわになっている胸元に舌を這わせ、もう片方は指先で執拗につま弾く。刺激を受け、すぐさま固く立ち上がった果実は、敏感に愛撫に反応した。
 紅く色づいたものを口に含んだまま、シリウスは上目遣いに伊集院大介を見やった。くちびるを噛み、耐える表情がシリウスの情欲をさそった。
 くわえていたものに、キリ、と歯を立てる。
「うっ・・・・・・」
 かすかに、押し殺したような声が漏れた。しかし大介が見せた反応はそれだけだった。あとは、いくらシリウスが攻め立てても歯を食いしばり、眉根を寄せたまま声をあげようとはしなかった。
「まったく強情だね──はじめはこんなものを使いたくはなかったのだが仕方がない、このままではらちが明かないから・・・・・・」
「何を・・・・・・」
 シリウスは、サイドボードにおいてあった注射器を手に取ると、すばやく大介の腕につきたて薬液を注入した。
「Abi in malam rem、大介・・・・・・」












 
 




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