Abi in malam rem -3-
 

 

 

 放置された躰が熱い。
 息が荒い。
 あきらかに、いつもの自分とは違っている。
 躰は、求めはじめている。

 その肌を這う舌を。
 自分を貶める、卑猥な言葉を。
 そして、強い快楽をあたえる、彼の手を・・・・・・?

 * * *

 ワイングラスをかたむけながら、シリウスは伊集院大介の躰をじっとりと見回していた。
 ──視姦とは、よく言ったものだ──ずっとその舐めまわすような視線を受けていると、本当に自分が蹂躙されているような気になってくる。
 もちろん、それは注射され、いままさに血液中を循環し、その効果をあらわしている薬のせいなのだろうが・・・・・・。
「効き目はどうだい、伊集院君。肌が火照っているようだね、それに目がうるんでいるよ、なかなかそそられる表情だ。ぼくを誘っているのかな?」
「馬鹿なことを・・・・・・言わないで下さい」
 シリウスが、冷笑する。
「はっ、やはりずいぶんと強い精神力の持ち主だね。どんなに躰をもてあまし、快楽を望んでいようとも、宿敵シリウスに屈するのはいやだときている」
 そういいながら、ポケットから取りだされたものを見て、伊集院大介は身を強張らせた。
 ピンク色のローター、それがシリウスの手に握られていた。
「君は必死に何も感じていないふりを装っているが、ほら、君の分身は勃ち上がって、既に蜜までこぼしているじゃないか。辛そうだからね、これで開放してあげようというんだ。ぼくの手で達かされるのは不本意なのだろうからね・・・・・・機械なら、いいだろう?」
 シリウスは、大介に見せつけるようにそれを目の前にかざした──大介が顔を背けようとするのを制し、言う。
「まったく不思議なものだ。このただのプラスティックの、電気によって動くだけの代物が、人を狂わせ、その快楽に酔わせ、人間の尊厳をはぎ取りただの獣におとしめるような力を持つとはね。
 そしてそれは伊集院くん、君だってその例外にあるわけではないんだよ。ふだんはそんなすました顔をして、正義だとか愛だとかのたまっていたって、皮をひとつ剥げば皆と同じように獣の脳にあやつられているんだ。ぼくはつねづねそのとりすました面を引っぱがしてやりたい──屈辱をあたえ、忘れられないほどその身に刻みつけてやりたい──と思っていた。
 ──そしてぼくはその思いに抗うことはできない・・・・・・君が、ぼくの手から逃げたりできないのと同じでね・・・・・・」
 耳障りな音を立ててローターが振動をはじめる。そして身をよじって逃れようとする肩を押さえつけ、それを胸にかるくあてた。
「・・・・・・っあ」
 指先までしびれるような快感が襲う。
 シリウスは、ゆっくりと焦らすように機械を肌の上を滑らせてゆく──けっして自分の手では伊集院自身に触れようとせずに。
 そしてついに、振動は彼の陰部まで達した。途端、大介の声が高くなる。
「ひあぁっ・・・・・・っ!」
 躰をこわばらせ、口を半開きにし、涙にぬれた目は宙をさまよっている。そんな姿を見て、シリウスはくちびるをつり上げ、嬉しげに下唇を舐めあげた。
 そして、急にスイッチを切る。
「あっ」
 いきなり現実に戻された大介は、一瞬シリウスを見上げた──懇願するような目で──。
「急に止められて不満だったかい、伊集院くん。いま君はとても物欲しげな顔でぼくを見たね。
まったく、恥ずかしくないのかい?ひとりだけそんなにいやらしい恰好をして、愛しい君の分身をいきり立たせて・・・・・・そしてそうやって目をうるませて、ぼくを見るんだ。達かせてくれ、っていうようにね」
 馬鹿なことを言うのもたいがいにしろ、そう伊集院大介は言おうとした。しかし躰はほてったままで、中途半端に放り出されたものは、その存在をあらわに示していた。
 薬のせいで、焦燥感はつのってゆくばかり。
 ──シリウスの言うとおりの状態なのである。
「だんだん、辛くなってきただろう?その薬は時間がたつごとにその効果を増してゆく。放り出された状態ではなおさらだ。そのままにしておけば君は狂い死にするかもしれないよ。
それは僕に取っても残念だし、不本意なことだからね・・・・・・」

 ──だからぼくが君を解放してあげよう──。

「ほら、膝を立てて、足を開くんだよ。鎖にはちゃんとそれくらいの余裕はあるはずだ」
 それでもためらって開こうとしない大介に業を煮やし、シリウスは強引に足をわった。
「さあ、ぼくが君をかわいがる樣子をしっかりと見ておくんだ・・・」
 そういうが、シリウスは伊集院を口に含んだ。ねっとりと包む粘膜の感触に、伊集院はうめく。
 鈴口の周りに舌をからませたまま、上目遣いに見上げる。
 自分をくわえるシリウスと目があった伊集院大介は赤面した──羞恥心が、さらなる興奮をよぶ。
「ああ、また大きくなったよ、大介・・・・・・」
 シリウスの手は竿の部分を弄び、舌は先端に刺激をあたえている。
 その手と舌に大介は追いつめられてゆき・・・今にも達しそうなほどになっていた。
 それなのに、シリウスはまたも愛撫を止め、今度は足の鎖をはずしにかかった。
 大介はいぶかしげにシリウスを見やる。
「せっかくだからね・・・・・・自分が快楽のふちを駆け登るときの表情を、君に見せてあげようと思うのだよ、大介」
「余計なことをしないでくださいっ・・・・・・」
 シリウスはふ、と微笑むと、自由になった伊集院大介の躰をかるがると抱え上げると、背丈ほどもある大きな姿見の前に下ろした。
 そして大介を自分の前にすわらせ、両足の間に自分の足をいれ、大きく開かせる。
 姿見には、全裸であられもなく足を開く姿がしっかりと映し出されている。そんな自分とは反対に、シリウスの衣服はまったく乱れていないことがさらに羞恥心をあおった。
シリウスの手が、後ろから大介の中心を握った。
 リズミカルにそれが扱きあげられる。さっき中途半端にたかぶらされたものは、いとも簡単に熱くなった。
「はっ・・・ああ・・・っああ・・・」
 大介は背をのけ反らせ、目をつぶって快楽を享受する。
「駄目だよ大介・・・・・・ちゃんと見てくれなくては」
 強引にあごを固定され、いやがおうでも目に入る、鏡の中の自分の痴態。
 一糸まとわず、汗にまみれて、雄を男ににぎられた自分の・・・・・・その顔といったら。
 シリウスが耳元で囁いた。
「さあ、達こうか。よく見ておくんだよ・・・・・・」
 手の動きにスパートがかけられる。体中を突き抜ける快感。喘ぐ表情。嬌声。
「・・・・・・うっ」
 ──姿見に白濁した液が散り、緩慢にしたたり落ち、鏡の中の大介を汚した。

 シリウスが指についた精液を舐めとる、その樣子をぼんやりと大介は眺めていた。
 脱力している大介を抱え上げると、シリウスはまたベッドにその躰を戻し、洋服を着せかけた。なぜかシャツのボタンははずしたままだ。
 そして、またも足に鎖をかけた──それだけでなく、手や胴の戒めまで。
 つかれきった伊集院大介は、なすがままになっている。
「・・・・・・シリウス、一体何を・・・・・・?」
「ふふ、君が宿敵であるシリウスに抱かれたという証しを──折にふれ、ぼくのことを思いだしてくれるように、プレゼントを付けてあげるのだよ」
 シリウスははだけた大介の胸の──胸のかざりをアルコールでしめらせた脱脂綿でふいた。その冷たさに、伊集院大介は身をすくませる。
 そしてはっきりと悟った──シリウスがこれから何をしようとしているのかを。
「君に自分であけてもらいたかったんだがね・・・・・・まあその状態ではそれは無理な相談だからね・・・・・・ほら、見てごらん」
 サイドテーブルに置いてあった小箱の包装をあけると大介にしめす。

 そこに入っていたのは、プラチナのニップルリング。

「乳首にピアスの穴を開けると、一生それはふさがらない──それに、ピアスをしていると、微妙な快感によってずっとそこは固く尖ったままになるそうだよ──このピアスはきっと君に、似あうと思うよ、大介・・・・・・・」
 シリウスは、ボディピアス用のピアッサーを持ち、左胸に当てがう。逃げをうつ大介の耳元で強い口調で囁いた。
「動いちゃいけないよ。下手な動きをして、君のかわいい果実がちぎれでもしたらどうするんだい」
 そして位置をさだめ、いっきに針をつらぬいた──するどく走る痛み。
「っ・・・・・・」
 血をふき取ると、開いた穴にリングを通す。
「さあ、ごらん」
 左の胸の果実をつらぬき、プラチナのリングが──二度と消えることのない、交わりの証しが──にぶい輝きを放っていた。
 シリウスはそれを満足げに見下ろすと、シャツのボタンをはめて服をととのえた。
「さて、そろそろぼくは行くことにしようか──ああ、君のことなら心配することはない、あとで警察に電話を入れておこう。そうすればだれかが迎えにきてくれるだろうからね。
それに外から見えるところにはいっさい情交の痕はのこしていないからね──そのプラチナのリングをのぞいては。だからぼくと君との間にあったことは誰にも知られることがないのだよ・・・・・・。
 ──そうだ、いいわすれていたが、君が快楽をうけてよがっている間に、刀根のやつはあのモデルをばらばらにしてしまったようだ。きっと君の醜態をみて、興奮して血がたぎってしまったのだろうね・・・・・・。
 では、アデュー、ぼくの愛すべき大介・・・・・・」
「シリウス・・・・・・ッ!」
 大介が何かを言おうとしている口唇をふさぎ口付けを交わすと、シリウスは優雅に手をふり部屋の外へと出ていった。

   *  *  *

「伊集院さん!」
 竹越警部がその部屋で憔悴しきった伊集院大介とモデルの惨殺死体をみつけたのは、シリウスが出ていった1時間ほどあとだった。
「伊集院さん、一体どうしたのですか、こんなに拘束されて・・・・・・そしてあの死体は・・・・・・?」
 全身の拘束をときつつ、竹越警部がたずねる。
「ぼくのせいなのです・・・・・・」
 大介はしずかに、しかしはっきりと呟く──左胸のリングを通された箇所が疼いていた。

「──ぼくは、シリウスを許すことができません。そしてそれと同じくらい、いやそれ以上に自分自身も許せない。あそこで冷たくなっている彼女は、ぼくが殺したようなものなのです・・・・・・。
 だからぼくは、かならずシリウスを捕まえる──この伊集院大介の、生命と誇りをかけて──」

(了)






Abi in malam rem・・・(ラテン語)「堕ちよ、悪しき処に」

 パラレル天狼星です。
 前から「絶対いい感じのシチュエイションになるはず!」と思っていたシリウス×伊集院ですが、他の人はだれも書いてくれませんでした。(少なくとも私は見付けられませんでした)で、しょうがないので自分で書きました。

 しかし、原作でもこの2人はラブラブですよねぇ〜。(かなり語弊あり)だって口移しでワイン飲ませたりしているでしょう、ミステリにも関わらず。凄いですよね、さすが栗本薫。

 ともかくこの小説は、「シリウス言葉攻め」って云う事で、ひたすらシリウスに喋らせました。伊集院がもうちょっと喋ったり抵抗したりするかと思いましたが、私の予想に反して殆ど言葉を発しませんでした。自分で書いているのに、思い通りにはならないものです。
抵抗しなかったので、伏線として張っていたモデル殺しが無駄になってしまったのがちょっと残念かなぁ。
 何でシリウスが女装しているかって云うのは、「似合うんじゃないか」と思ったからです。
 あっ、やめて、そんな批難するような目で見ないでッ。












 
 




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送