涼州詞
王翰
 
 

 

 

葡 萄 美 酒 夜 光 杯
葡萄の美酒夜光の杯
欲 飲 琵 琶 馬 上 催
飲まんと欲して琵琶馬上に催す
酔 臥 沙 上 君 莫 笑
酔いて沙場に臥す君笑ふこと莫かれ
古 来 征 戦 幾 人 回
古来征戦幾人か回へる
 
 
 

<現代語訳>

葡萄の美酒 、夜光の杯。
飲もうとすると、どこからか馬上で弾く琵琶の音が興を添える。
このまま酔っぱらって砂漠の上に倒れても、どうか笑わないで欲しい。
昔から、遠く戦いにでた兵士達のうち、幾人が国に帰れたというのか。

※葡萄酒・・・漢の時代に西域から伝わった
 夜光の杯…西域に産する白玉で作った杯
 催す…せきたてるような急調子で演奏する
 沙上…土煙がたち、砂が舞い上がる樣子から、戦場の比喩としても使われる
 
 

<作者、王翰について>

おうかん=(六八七?〜七二六?)玄宗の開元元年前後に在世した。字は子羽。晋陽の人。景雲二年(七一一)進士に受かり昌楽の尉となった。豪快な性格で、酒好き。狩猟をする日々を送った。宰相張説に認められ、駕部員外郎に命ぜられる。張説が失脚すると、仙州別駕に左遷されたが、仁侠の士を集めて酒宴にふけったため、道州司馬(現:湖南省道県)に流されて配所で没した。
王翰自身は西域に行った事はなかった。この詩は、想像して詠んだ物である。

進士・・・中国の、隋・唐の時代の科挙の科目の一つ。文学を主とする科目。
玄宗・・・唐の六代目皇帝。やがて楊貴妃に心を奪われ、政治を怠るようになる。
 

 

<涼州について>

現在の甘粛省武威県。当時は、西域との国境地域であり辺境の砂漠地帯だった。シルクロードの要所であり、遠くギリシアからガラス器や葡萄酒などが伝わったが、一方西北方防衛の重要拠点であり、西域諸国との戦争でたびたび戦場となった。
この地には涼州歌という、日本の防人の歌の様な名もない兵士の歌う俗曲が有ったが、「涼州詞」はこの俗曲の歌詞として王翰が作ったもの。

俗曲・・・酒席などで興を添えるために、楽器に合わせて歌われる歌。
西域・・・古代中国人が、中国の西方諸国を指して呼んだ語。(狭い意味では、現在の新彊ウイグル自治区一帯の地域)
 
 

<込められた作者の想い>

 葡萄酒、夜光杯、馬上の琵琶と、異国の西域から伝わった物が連ねられ、辺境地帯らしい雰囲気と、一種のはなやかな気分を感じさせる。
そして、極上の葡萄酒を嫌と言うほど飲み、砂漠に酔い臥す兵‥‥。言葉や情景からは、異国情緒や豪快さを感じる。
しかし兵士の思いはそうではない。この戦場での宴で酒を倒れるまで飲むのは、奮い立つ意気を誇るためではない。この戦いでいつ死ぬか解らない恐怖や、ちゃんと故郷へ帰ることが出来るかという不安、現実の憂いを紛らわせるために、束の間の酔いを求めているのだ。
 
 

<参考文献>

「カラー版新国語便覧」(第一学習社)
「唐詩のよみ方と解釈」近藤春雄 (武蔵野書院)
「続、おじさんは文学通5〜漢詩編」田口暢穂 (明治書院)
進研ゼミ教材(ベネッセコーポレーション)


 
 


 

凌愁詞 RYO-SHU-SHI
我蘭
 

凌・・・(苦しさ・辛さを)我慢して切り抜けること
愁・・・(結果や成り行きを)心配する・憂える
 
 
 


 
 今宵は月夜。
 果てなく続く砂漠が、満月の光を浴びて仄白く浮かび上がっている。
 
 
 
 
 
 (俺は──今日は幾人殺したのだろうか?俺の友は、幾人黄泉路に旅立ったのだろうか・・・?いや、それよりこの辺境の地での戦はいつまで続くのだろう・・・・・・)
どうしようも無い不安と絶望が、心を満たしてゆく。
それを振り切るように、俺は極上の葡萄酒を異国の硝子の杯に満たす。その酒は──血の色をしていた。
 
 
 
 
 
 酒を促し、宴を盛り上げるように、戦友が馬上で琵琶を激しくかき鳴らす。
「なぁ」
「・・・・・・何だ」
「俺が、この極上の酒に酔い、酔い潰れてこの砂漠に倒れ伏したとしても、笑ってくれるなよ・・・・・・」
友は、憂いを湛えた目で笑った。
「ああ、解っている。こんな戦いなど、酒で現実を忘れないと、耐えられないだろうからな」
俺は頷く。そして、友に杯を差し出した。
「飲むか」
「飲もう」
「では、我が国の勝利と、」
「俺達の明日に、乾杯」
「乾杯」
 
 
 
 
 
 *  *  *
 


 
 
 古来から、人は無為な争いを繰り返してきた。
(昔から、この様な異国の辺境の地に多くの者が出征して来たのだろう。しかし・・・・・・一体その中の幾人の者が生きて故郷の土を踏んだのだろう?)
 
 
 
 
 
 ・・・・・・俺は、明日の夜も酒を酌み交わせるのだろうか・・・・・・?
 
 
 

<了>
 
 


 高校1年の時に、国語の課題として作ったもの。
 「凌愁詞」は、漢詩「涼州詞」を小説風にアレンジしたもので、登場人物のモデルは「陰陽師」の晴明と博雅だったりする。















 
 




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